援助職のためのアルコール関連問題Q&A
アルコール依存症者の理解について
アルコール依存症の人がお酒をやめられないのは、意志が弱いからなのか、それとも性格的な異常なのでしょうか?
アルコール依存症という診断を受けた人の中でも、それぞれ依存の程度や症状に違いがあり、また症状が現れるための要因として、性格・生活環境・文化的背景・職場環境等個人的・社会的影響が複合的に絡み合っていることが考えられます。
治療・援助者は、それらの検討と識別をしながら、一人一人の患者に適した治療目標を作り、患者にその方法を提案して、より適切なアプローチを試みます。
ここで出された質問では、これまでうまくいかなかった方法の検討をきちんとしないで依存症の現れている人を患者に仕立てあげるだけで、問題解決の糸口を見いだせない考え方になっているようです。これまでのような、決まり文句のように「意志の弱さ」を強調するばかりでなく、まだまだ理解すべきことはあると考えます。それは、アルコール依存症への認識と理解を患者や家族がもち、そのことを通して現状の混乱と苦しみを和らげていく効果が得られるということです。病気を知り、認め、受け入れることがまず第一の大事なこととなります。
ひとりで何とかしようとしてうまくいかなかったのは、病気のせいであり、適切な治療と目標設定や自助集団への道づけ等により、努力すべき具体的方向を見つけることにより10年20年という時間を経て、はじめて意志の強さを形成していくものなのです。
アルコール依存症の原因として、たしかに、不安に陥りやすかったり、抑うつ感をおぼえやすいなどをいわれることがありますが、大切なのは、その人が抱えている様々な問題から逃れる為に何故アルコールが役立っているかを考えることだと思います。
全てのアルコール依存症者が[神経症]や[性格障害]であることはなく、性格の強い偏りがあるといっても、それだけで過度な飲酒の必要で十分な条件になるということもないのです。
この質問にいう性格の異常とは、普通の性格の傾向が拡大されたものに過ぎず、逆にみると、その人の持つ良い性格の側面が押し隠された状態にあるともいえるでしょう。
繰り返しますが、大事なことは、その人となりを理解し、アルコールが彼らの心理的苦痛を和らげる上でどんな作用をしているかを考えることで、「不適応性格」とか、「精神病質」というレッテルをはって、彼らへの理解を妨げることがあってはなりません。
参考文献 | 「アルコール症治療の手びき」(医学書院) 「アルコール中毒」物語風(五月書房) |
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自助グループへの参加について
自助グループへ参加することが大切なことだとは思っていますが、人前でしゃべることが苦手でどうしても足が遠のいてしまうという方がいます。何か良い方法を教えて下さい。
自助グループへ参加することはまず、自分の過去の体験を語ることで心の重荷を軽くし、仲間の話に耳を傾けることで自分の生き方を振り返り、病気に対して認識を深めていくことが目的です。ですから体験を語ることにおいて上手下手は関係ありません。その場に参加することが大切なのです。上手く体験談を語っているメンバーでも、最初のうちはあなたと同じように緊張して上手く語れなかったに違いありません。
体験談がどうしてもしゃべりづらければ体験を紙に書いて話すとか、同じ体験談を何度も繰り返し語ることで徐々に慣れていくでしょうし、自分の名前の紹介やあいさつをするだけでも良いと思います。又、気心の知れた仲間と一緒に行く方が、一人で参加するよりも行きやすいです。
まずは例会やミーティングに参加する習慣をつけましょう。
家族への説明について
ケースワーカーとして、家族にアルコール依存症のことをどのように説明すればよいのでしょうか?
アルコール依存症者の家族のおかれている社会的な状況や持っておられる感情なども考慮しながら、次のようなことにポイントをおいて説明なさってはいかがでしょうか。
【アルコール依存症とは】
- 誰でもなる可能性のある病気です。
病気の原因は過剰な飲酒です。過剰に飲酒できる体質を持っていたことが大きく関係しています。
1日平均清酒3合(ビールなら大ビン3本、ウイスキーならダブルの水割り3杯)を約10年間飲酒すれば、誰がアルコール依存症になっても不思議はないのです。性格や人間性の問題でなる病気でもありません。 - 進行性の慢性の病気です。
20才前後に初飲、20代後半で習慣飲酒、30代前半で問題飲酒になり、30代後半で内科治療が必要となり、40代後半でアルコール治療が始まるのが一般的なパターンです。断酒しないで飲酒し続ける人達の平均寿命は52才です。
約30年かけて進行し、死を迎える慢性の病気です。 - アルコールへのコントロール障害です。
この病気の本質は、アルコールへのコントロールを失うことです。ブレーキがきかなくなり適量が守れなくなるのです。
「一杯だけ」のつもりで飲んだ酒が一杯でとまらず泥酔しては、アルコール問題をおこしてしまうのです。 - 完治しませんが再発は防げる病気です。
アルコールへのコントロール障害は、たとえ何年断酒したとしても完治することはありません。生涯適量を守って飲酒できるようにはならないのです。
しかし、一杯の酒を口にしなければ再発は防げます。
完全断酒で再発を防ぐところから回復がはじまります。治療と自助グループが回復には不可欠の条件です。 - さまざまな生活問題をひきおこす病気です。
アルコール依存症は、過度に飲酒する人の健康問題をはじめとする、さまざまな生活問題の根源となります。
酒代による浪費、借金などの経済の問題、遅刻、欠勤などの職業上の問題、転落、転倒、失火などの事故、酒乱、不和、離婚、児童虐待などの家族の問題などがアルコール依存症関連問題としてよく知られています。これらの問題は病気の進行とともに複雑になり深刻化します。 - 家族全体に影響を与える病気です。
家族は、過度に飲酒する人との関係や生活に悩み苦しんできました。
長年にわたる日常的なストレスによって家族は影響を受け、本人との間に歪んだ相互作用を作ります。この病んだ関係は、家族や本人を苦しめるばかりでなく、アルコール依存症の進行や回復にマイナスに働きます。さらに、アルコール問題のある家庭は、その中で育つ子ども達に大きな影響を与えます。その影響は成人した子ども達にまで持ち越されます。感情障害、不登校、シンナー依存、不安神経症などが子どもの問題としてよく知られています。 - 時間を要しますが回復可能な病気です。
アルコール依存症からの回復も、家族が受けた影響から回復するのにも順調にいっても数年かかります。専門家の援助や治療を受けながら、本人も家族も一緒に自助グループに参加することで回復を進められます。
アルコール依存症の治療期間について
どのくらいの期間、お酒をやめたらアルコール依存症から回復したと考えればいいのでしょうか?
医学的にはいくつかの考え方があるようですが、アルコール依存症の方が断酒会やAAグループなどの自助グループに参加しながら断酒継続している場合、断酒後3年から5年でアルコール依存症は安定期に入っていきます。しかし、他の身体的・精神的な合併症がある場合にはもっと時間がかかるように思います。アルコール依存症からの回復とはまず断酒継続していることが前提で、身体的な回復、家族関係の回復、社会参加の回復を言います。社会参加の回復と言いますとすぐ仕事と考えがちですが、仕事は社会参加の一部であると考えたほうがよいと思います。そう考えますと、やはり3年から5年と思います。
発病してから永い年月が過ぎた病気ですから、専門治療を受けるようになったからといって、すぐ回復するわけではありませんが、あきらめないで辛抱強く待ってあげてください。
治療する意志のない者の対応について
夫のアルコール問題について家族から相談を受けていて、何とかアルコールの専門治療につなげたいと思っていますが、本人にその意志がありません。そんな時、本人・家族にどのようにアドバイスをすればよいでしょうか?また、その際注意する点はどんなことでしょうか?
ケースワーカーとして
- どのようなアルコールによる問題があるのか。
- 本人・家族が困っていることはどういうことなのか。
- なぜ、アルコールの専門治療につなげたいのか。
- 家族は、本人に酒をやめさせて何を期待しているのか。等
本人・家族の問題を整理していく必要があります。
本人に対して
(酒が切れ自分の飲み方に悩んでいるときに)
- 酒は止め続けなければいけないこと。
- 酒は止めていけること。
- 家族が心配していること。
- 治療を受けて回復することを家族が望んでいること。等
を伝え専門の治療につながることを勧めます。<BR>
家族に対して
アルコールによる問題が生じてくると、適量では止まらず、自分の意志ではコントロールできない病気であるということを説明します。本人が治療に乗りたがらない場合は、まず、家族がアルコール依存症という病気を正しく理解するために、専門医療機関や保健所での家族相談・家族ミーティング等に参加するように勧めます。また、家族自身が本人の病気に巻き込まれて、疲れきっている場合が多いので、本人の飲酒のペースに振り回されないこと、本人の肩代わりをしたりしりぬぐいをしないことで、本人に自分の問題としてアルコール問題に直面し、認識させる必要があります。
長年の飲酒が日常生活において習慣化しているので飲まずに過ごす日常生活になれていない場合が多く、病気を引き起こしている習慣を替えることが必要です。以下の3つのことが必要であるといわれています。
- 病気についての正しい知識を得ること。
- 習慣を変える決意をすること。
- 習慣を変えるために行動を変えること。
お酒が原因だとわかっても、節酒でなくなぜ断酒が必要なのかという正しい知識を持つことが必要です。あせらず、本人・家族と十分な面接を行い、タイミングを待ちながら専門医療機関の受診につなげていくようにアドバイスしていきましょう。
飲酒時の対応について
飲んでいない時や入院中はとてもものわかりの良い、素直でおとなしいアルコール依存症の人が、一旦飲んでしまうと人が変わったように暴れたり暴言をはいたりする場合がありますが、それがその人の本来の姿なのでしょうか?
また、そんな状態の人にはどのように対応すればよいのでしょう?
“飲むとホンネが出る”とはよく言われることですが、アルコール依存症の人にはあてはまりません。アルコール依存症の人が飲んでいる状態というのは病的な状態です。お酒がさめてみると、本人は自分が飲んでしたことを全く憶えていないということもよくあることです。
病的な精神状態での言動には振り回されないことが大切です。飲んで酔っ払っている人にいくら一生懸命にかかわっても、本人の記憶には残らない場合もあり、意味がありません。まず、お酒がさめるまで待ちましょう。そして、しらふになった時に、その人が“飲んでしたこと、言ったこと”を感情的にならずに事実として伝えてあげることが今後のために大切なことです。
入院時の対応について
一般病院のケースワーカーとして、アルコール依存症と思われる患者が内科で入院してきた場合はどのようにアプローチすればよいのですか?
まず救命医療が優先する事は言うまでもありませんが、患者本人とのコミュニケーションが可能な場合は、入院時より医師からアルコールが病気と関係していることをはっきりと本人.家族に告げてもらいます。「お酒をやめることが必要です。一般科で身体を治しても飲める身体にするだけなので、専門医療の為の受診が必要です」と話してもらいます。医師の指示に対して本人・家族がどのように思っているかをよく聞き、拒否する場合は自分でお酒をやめることに努力してもらうしかないと思います。しかし失敗した時には医師の指示に従う約束をとりつけます。また家族に対して、家庭内や職場などでのアルコール問題について聞き、家族が問題を認識している場合は積極的に専門医療機関の家族相談を受けるよう、紹介等をしていきます。医師の指示を受け入れた場合は基本的には家族同伴での受診を勧めます。
患者本人とのコミュニケーションが不可能な場合は、とりあえず病状が落ち着くのを待ち、前述の対応となりますが、離脱症状がでてきて一般科での対応困難な場合は専門病院への転院などの調整を検討していきます。また、痴呆やコルサコフなど一般科での入院継続が困難な場合、精神科への転院調整をします。
また、拒否が強く、医師の指示に従わない場合も数多くありますが、院内でアルコール依存症について理解出来る条件を作る必要があります。例えば、断酒会、A.A.などの協力で体験談を聞く会や、アルコールと病気に関する講座などが考えられます。この為には医師・看護師の協力が不可欠となり、日常的な取り組みや働きかけが必要になってきます。すぐにはできないとしても、いろいろなパンフレットなどを利用して患者・家族に資料を提供することから始めることも出来ると思います。
内科病院へたびたび入院する者の対応について
福祉事務所のケースワーカーです。アルコール専門クリニックに通院している人が、飲酒してしまうとすぐに近くの内科医院に勝手に入院してしまいます。こんなケースはどのように対応するべきですか?
アルコール依存症への治療や援助には継続性が大切です。治療者はその人の回復段階や身体的、精神的、社会的な状況や問題点を把握した上で、適切な治療を行っている医療機関と共同し、基本的には一貫した治療の流れが継続出来るように援助すべきです。
質問のケースの場合、まず、何故内科病院に入院したのかを適確に判断する必要があります。身体疾患の治療の為に入院する必要があったのか、何日も飲み続けた状態の上に全身が衰弱し救急搬送されたのか、アルコールを切ることを求めて入院したのか、始めから決めつけずに客観的に入院の意味を検討することが大切です。次に、身体状況の改善を待ち、本人が通院している専門クリニックと協議し、アルコール治療の方向を確認し本人との面接を行っていかねばなりません。その中で、例えば
- 入院している内科病院から外出等で専門クリニックの治療プログラムに参加すること
- アルコール専門病院に転院し入院プログラムを活用し治療を行うこと
- 他のアルコール関連施設への処遇を考えること
- 退院を待ち専門クリニックに通院を再開すること
- 入院している内科病院から外出等で自助グループに参加すること
等の具体的な方法を本人と話し合う必要があるでしょう。
ただ、このケースの場合においても、「内科病院に入院すれば簡単に酒が切れ、身体も楽になる」という繰り返しの体験が、専門クリニックでの治療や福祉事務所からの援助等で徐々に身につけていったアルコール依存症への病識を後退させていくおそれがあります。福祉事務所のケースワーカーとして内科病院のスタッフと話し合いの場を持ち、上記のような方向付けを出来るだけ早い時期に行えるように内科病院側にアルコール依存症への治療、援助についての理解を促すような働きかけを行うことは大切なことです。
また、「アルコール専門クリニックに本人はつながっているので、福祉事務所としての援助は充分である」と安心してしまうのではなく、日常的な本人への地道な関わりの中で、アルコール依存症に対する適切な治療的機会を保障する援助や様々な社会福祉的な援助を積み重ねていくことが重要なことです。
入院時の病院スタッフ間の理解と対応について
一般病院のケースワーカーです。アルコールの問題を抱えた患者さんを入院させると、他の医療スタッフから、どうしてアルコールの患者さんを入院させるのですか? と強い口調でいわれました。入院の必要性を理解してもらうにはどうしたらよいでしょうか。
一般病院の内科病棟などに、アルコールの問題を抱えた患者さんが入院してくることはまれではありません。特に消化器内科等はほとんどがアルコールがらみといっても過言ではないくらいだと言われることもあります。
おそらく、アルコール依存症の患者さんをいやがるのは、何回も今度飲んだら駄目と「指導」しているのに、同じことを何度も繰り返し、飲んでは家族や医療スタッフを困らせる「問題患者」という見方をしてしまうせいではないでしょうか。
これらの患者さんが内科で入院となるきっかけは、連続飲酒による下痢、脱水症、急性すい炎、肝臓機能の増悪、吐血等臓器疾患の悪化がほとんどです。飲酒という原因に目を向けず、そこを放置したまま内科の加療を行い、急性症状を越えそろそろ退院というところで「退院時指導」という名目でお酒は控えなさいとか、絶対飲んだら駄目、断酒会にいきなさいといったところですでにコントロール障害となっている患者さんが、退院後すんなりと断酒出来るわけがありません。
急性症状は身体からのSOSです。そこをしっかり受けとめ早期に専門治療への導入を行う必要があります。患者さんの疾患受容の状況に応じて、また身体状況によっても内科入院というクッションが必要なケースもあることをよく理解してもらいましょう。
しかし残念なことに、問題を患者さん自身に直面化させないままに、身体症状だけよくして、また酒が飲める状態にして退院させているという実態がまだまだ多いのではないでしょうか。
巌器疾患を合併したアルコール依存症の患者さんが、まず内科を受診しあるいは入院するのは自明のことです。一般病院がアルコール治療の入り口にもなるわけです。
医師を含めたチーム全体が、患者さんをアルコール治療にどう導くかについて統一した対応をする必要があります。
断酒開始後について
断酒をはじめてから、イライラしたり落ち込んだりすることが多いように思います。ストレスで、また飲んでしまうのではないか心配です。どのように援助したら良いのでしょうか?
一般には手がふるえる、身体がふるえるといった“振戦”、また何かが見える聞こえるといった“幻覚”や“幻聴”といったことがよく知られています。「イライラする」といった一見日常生活の中で慣れてしまっている症状も離脱症状の一つなのです。これはいくつかある離脱症状の中の“不眠”とも関係しますが、ほとんどの方が経験されます。せっかちになったり、怒りっぽくなったりと普段落ち着いてかんがえれば何気ないことでも、断酒のスタートをきられてまもなくの頃は、しばらくこのような状態が続くことが多くあります。
また、「落ち込み」も断酒後によく現れる状況です。心身ともに自分をうまくコントロールできなかった状況から、断酒に向かい自分自身を取り戻していく過程では、いろんな経過をたどりながら変わっていきます。人によってこの落ち込みの起きてくる時期はそれぞれですが、そのような中で飲んでいたころの自分が徐々に見えてきます。それ故に、不健康であった自分と対峙していくことで落ち込みも起こってきます。しかし、この作業は何年もかけて自分を見つめるという作業の始まりであるとも言えます。きっちりと断酒を続けていくことでほとんどの場合、これらの症状は消失していくと言われていますが、今までは飲酒が続いていたこともあり、断酒することによってはじめて背後に潜んでいた状況と向き合っていくと言ってもいいでしょう。「イライラするからといって飲めば楽になる」「落ち込んでいる気分をハイにするために・・・」ということから再飲酒される場合がありますが、せっかく断酒を決意されても対処の仕方が飲んでいるときと同じパターンになってしまっては、それこそ元の木阿弥です。
- 「イライラは出て当然」「落ち込みは断酒を続けていく上での一つの課題」ということを伝え、本人がそれを受け止められるようにしましょう。
- おなかを減らさない、怒らない、一人にならない、疲れないようにする等の、再発しやすい状況を避けることがイライラを防ぐと言われています。飲まない自分自身の体調の変化や行動の仕方に本人が気づくように促しましょう。
- 同じような体験をされてきた仲間の体験(どのように悩み、考え、乗り切っていかれたか)を聞くことや、逆に聞いてもらうことが役に立ちます。
- ひどい場合は、主治医に症状を詳しく話して適切な投薬を受けることを勧めましょう。
大切なことは、本人が飲まないでイライラした自分や落ち込んでいる自分とつき合える自分を創っていくことなのです。「今自分はイライラしている」「落ち込んでいるんだ」ということを受けとめ、周囲の人にこのことを伝え言語化するだけでも大きな意味があります。飲んでいた時は、このような気持ちをひとまとめにして飲んでおられたのですから・・・。
就労と断酒について
福祉事務所のケースワーカーです。アルコール依存症者にとって一番大切なことが断酒であることはわかっていますが、働き盛りの男性が一日中ブラプラして、夜は自助グループに通って仕事もしないのは、やはり何か釈然としないものがあります。仕事と断酒を両立させてこそ真の回復だと思いますが。
生活保護の担当ケースワーカーとして、就労や「自立」を早期にすすめたい、という気持ちは分かります。しかし、断酒が軌道に乗るまでには、断酒後少なくとも半年から1年、人によってはそれ以上の期間が必要です。この期間は、断酒活動に専念する方が長い目で見れば、早期の自立につながるようです。というのは、就労は、しばしば再飲酒を引き起こすきっかけになるからです。仕事は本人にとって大きなストレスになりますし、また、職場でのつきあいで酒席に出なければならないこともあります。 早すぎる就労は、再飲酒へのステップにしかならないのです。就労を開始する時機については、主治医や医療機関のケースワーカーと相談して決めることが必要です。
私の経験では、断酒後、すぐに「仕事をする」というアルコール依存症の方が少なくありません。生活保護の担当者はこの時、相手の就労への焦りに同調するのではなく、断酒に専念するように助言するべきです。
なお、質問のように断酒後、間もない人が昼間ブラブラしているのであれば、仕事よりも、病院やクリニックで行われているプログラムに参加するように勧めてみてはどうでしょう。また、数は少ないですが昼間に開かれている自助グループのミーティングもあります。
子どもについて
アルコール依存症者のいる家族に関わっているのですが、最近そこの子どもの様子がおかしいので心配です。子どもにはどのような影響があるのでしょうか?
アルコール依存症という病気はもとより個人の病気ですが、その影響は家庭すなわち配偶者やこどもたちをも巻き込み不健康な状態に陥らせます。その中で育った子ども達は心身に影響を受ける可能性が高くなります。情緒的な問題や心身症的症状、摂食障害、不登校、多動、暴力などの行動的問題等、深刻な問題があることが報告されおり、中には、子どもや家庭の様子をみながら地域の児童相談所や保健センターとの連携を考えなければならないケースもあります。しかし、このようなアルコール問題のある家庭の子ども達を対象とした具体的な支援はほとんどおこなわれていないのが現状です。
また、クラウディア・ブラックは著書「私は親のようにならない」の中で、アルコール依存症のいる家庭の中の共通ルールとして「話してはいけない」「信じてはいけない」「感じてはいけない」の三つをあげています。こうしたルールを身につけた子ども達は、家族というシステムの中での共通した特徴的な役割を演じ続ける為、(1)忍耐強い努力家、(2)過剰な責任感と用心深さ(3)不信感、(4)自分を大事にできない、(5)罪悪感が深い、(6)くつろぐこと、遊ぶことができないなどの共通してみられる傾向を持つことになります。このような傾向は成人となっても消えることなく対人関係における問題を中心とした「生きづらさ」を感じさせます。
このような「生きづらさ」が注目され、アメリカで生まれた概念がAC(アダルトチャイルド)です。ACは成人した「アルコール依存症の親を持つ子ども」のことを意味しています(現在ではアルコールが絡んでいない機能不全家庭で育った成人した人も含めてACと呼ぶことが多いです)。地域によってはミーティングを中心としたACの自助グループが活動をしています。
否認とは?
否認という言葉がよく使われますが、否認とはどういう意味なんでしょうか?
アルコール依存症はよく否認の病気と言われます。否認とは、あきらかにある飲酒問題ゃアルコール依存症であることを認めようとはせず、何らかの理由をつけたり、問題を小さく考えたり、周囲のせいにしたりする等のことを言います。
援助する場合、この否認について理解をし、否認の存在を前提として関わっていくことが一つのキーとなります。
では、その否認はどうして起こってくるのでしょうか。いろいろな理由がありますが、大きなこととして、アルコール依存症はまだまだ世間一般では、病気として理解されているとは言いがたいのが現状だと思われます。そのため、病気に対しての偏見や誤解があります。たとえば、意志が弱い人、飲んで暴力を振るう人、全く酒を止められない人、一度に多量に飲む人、悩みがあるから飲んでしまう等々。数え挙げればきりがないほどにあると言えます。一般的にそのような誤解や偏見が存在するように、飲酒問題を持っている本人も同じように、いやそれ以上にこの病気に対する偏見や誤解を持っています。そのため、飲酒問題を認めるということは、自分がその偏見や誤解の上に成り立ったアル中であるということを認めるということになってきます。そこで、「自分はそうじゃない。」「自分をあんなアル中と一緒にするつもりか。」ということになってしまい、問題が深刻化すればするほどその傾向は強まります。周囲も病気の正しい知識や対応を持たずに接した場合、どうしても本人を責めたり、説教したりして、飲酒をやめさせようとしてしまうために、本人は余計に自分を防衛しようとします。これでは否認をますます強くしてしまう結果につながります。
具体的な否認の言動を挙げてみますので、こういう態度や言動に巻き込まれずに、冷静に対応していくことが大切でしょう。
- 問題を小さく考える
- 飲んでも仕事には行っている。
- には迷惑をかけていない。
- 飲んでも寝るだけ。
- 肝臓病、糖尿病で入院しただけ。
- 問題を合理化する
- ストレスがあるから飲む。
- 眠れないから飲む。
- 周囲が口うるさく言うから飲む。
- 問題を一般化する
- 自分がアル中なら世間の人は皆そうだ。
- 自分より飲む人は世間にはいっぱいいる。
- 突っ張る
- やめようと思ったらいつでもやめられる。
- 今までにも、やめたことがある。
- 飲まなかったら、飲まないでいられる。
- 居直る
- どうせ、俺は意志が弱いから。
- 酒で死ねたら本望だ。
- 誰も俺のことは考えてくれない。
- 自分の金で飲んでどこが悪い。
今までは、アルコール依存症者自身のことについて書いてきましたが、もうひとつ大事なことは、本人同様に家族にもこういった否認が存在するということです。たとえば、「私の主人がアル中なんて考えられない、暴力もふるわないし、仕事にもちゃんと行っている」「主人は仕事でのストレスが重なったので、お酒の量が増えただけです」等、上記の5つの項目の言動や態度を家族の言動としてもとらえる事ができます。これは家族も病気としての知識がなかったり、家族の身内にお酒の問題(特に酒乱タイプ)があったりした場合等によくみられます。これらを変えていくためには、本人と同じように家族にも、病気の正しい知識をもってもらい、また、地域の自助集団に家族も参加していただくことが必要だと思われます。
女性と男性の違い
女性アルコール依存症者は男性アルコール依存症者と比べて何か違いはあるのでしょうか?
ここではアルコール依存症について男女に性差で違いがあるのかを考えてみたいと思います。
- 生物学的違い
アルコール吸収と代謝には、男性と女性では明らかな違いがみられます。女性ホルモンが影響することもあり、男性よりも少量かつ短期間で身体的ダメージを受け、男性の約半分の年数でアルコール依存症になっているという研究報告もあります。 - 社会的背景
近年、女性の生き方や女性をめぐる概念が大きく変革し、あらゆる分野で性差がなくなる傾向があります。そのような社会状況に伴い、女性の飲酒に対してのイメージも「あたりまえのこと」とする傾向に変化し女性飲酒人口は増加しています。しかし、問題飲酒行動に対しては「女だてらに」とみられ、特に中高年の女性においては家の中で隠れて飲酒するなどの特有の飲酒行動をとる場合が多くあります。
多くの男性の人生が仕事を核にしたものであるとすれば、女性は家族を中心とした人間関係に影響を受けているといえます。このことから女性アルコール依存症者は「人間関係の病」を端的に表しています。病的な飲酒行動を「生きにくさ」の表現としてとらえると、ライフサイクル(生き方)のどの時期に彼女たちがつまずいたかを知ることができます。
社会の女性に対する偏見や無理解、そして自分自身のあり方と社会的役割の板挟みから、漠然とした「生きにくさ」を生じさせていることと女性アルコール依存症との因果関係が深いことが理解できます。そのため断酒によるしらふの人間関係の修復や獲得だけでなく「女性としての生き方」そのものが、回復プロセスにおいて問われてくるのでしょう。
女性のアルコール依存症者に対する援助の視点について
女性アルコール依存症者の援助の視点について教えてください。
アルコール依存症という病気に対する援助においては女性であっても男性の場合と基本的には同じです。しかし、多くの女性の場合、ライフサイクルにおける危機の中で家族関係や対人関係における葛藤や悩みを回避する手段としてアルコールを用いるといった背景があると考えられ、男性と比べてより個別的な対応が要求されるともいえます。
治療にやってくる女性達は飲酒している自分に強い自責感と、自己否定感を持っています。また、家族や夫婦の関係に介入援助をしていくことが本人の断酒に大きな影響を与えると考えられますが、男性と比べて女性の場合、家族、特に配偶者からの理解や協力がまだまだ得難いのが現状です。その中で、関わる援助者は女性たちの個々の生きづらさに共感し、面接やミーティングをとおして、肯定的な支持と支援をしていくことが大切です。同様に同じ女性の仲間の中で受け入れられていく体験も大きな力となります。女性同士であるからこそ話せる、また分かり合える場が必要なのです。充分とはいえませんが以前と比べると自助グループでの女性グループ等も増えてきています。
女性達が病気の回復過程で自分自身を表現し、自己肯定感を高めることが断酒、また断酒の継続につながっていくのではないでしょうか。
単身者について
単身のアルコール依存症者が退院する場合、独りで断酒生活を続けられるか心配です。退院してすぐアパートで飲み友達が集まって、酒宴を開いたりすることもありますし、孤立した生活の中で衰弱死の可能性もあります。単身生活者への援助をどのようにすればいいのでしょうか?
単身生活のアルコール依存症者の場合、次のような援助が考えられます。
まず地域に同じ病気、同じ単身生活者であるなどの共通部分をもった仲間が必要です。アルコール依存症者が一人で酒をやめつづけることは至難の業です。同じ目的をもった仲間とのつながりが断酒生活には不可欠ですから退院前から地域の自助グループに参加をし、仲間作りをすると良いでしょう。周囲には、本人が酒飲みであることを知っているかつての飲み仲間がいます。そのような飲み仲間と距離をおくためにも断酒仲間の存在が必要です。
次に、単身生活者は退院後の生活の中で起こってくる問題に対して全て自分で対処していくことが求められますが、しらふの生活を始めたばかりのアルコール依存症者にとっては、些細なことでもどのようにしたら良いか迷ったりストレスに感じたりすることが少なくありません。ですからそのような場合に相談に乗ってくれる人があると良いでしょう。自助グループの仲間や地域の援助職や本人の周囲の人が定期的な通院や相談をとおして本人の断酒生活をサポートする体制を作っておきましょう。周囲がアルコール依存症について正しい理解を持つことも大切です。
単身生活者の場合、再発したり、病状が悪化したりすることによって危機的な状況になっても周囲が気づかずに孤独死するケースも後を絶ちません。このような不幸なことが起きないようにするためにも、本人が孤独になることを防ぎ、再発や病状が悪化したときにSOSを出したり、SOSをキャッチできるようなサポート体制作りが望まれます。
最近はアルコール依存症者のためのデイケアや仲間作りを目的としたグループ活動も増えています。地域によってはアルコール依存症者を対象とした作業所などの社会復帰施設も出来てきていますから、そのような資源を活用しても良いでしょう。地域のASW会員や精神保健福祉センターなどに問い合わせてみてください。
以前は、「単身生活者は回復が難しい」といわれていましたが、回復している人たちはたくさんいます。実際に回復している単身生活者の姿を知ることが本人にも周囲の人にとっても役に立つでしょう。
再飲酒について
一般病院のケースワーカーです。入院中に、医師から断酒する様に説明を受け、その場では「必ず断酒して、専門クリニックに通院します」と言われるものの、数ヶ月して再入院される方がいます。 再入院についてどのように受け止め、対応したらよいのでしょうか?
本人は、約束を交わしたときには本当に酒をやめようと思っていたでしょうし、頑張ろうと言う気持ちでいっぱいだったと思われます。しかし、断酒の決意をしたからといってそれだけで止めていけるものでもありません。長年の飲酒が日常生活において習慣化しているので飲まずに過ごす日常生活に慣れていないからです。
病気を引き起こしている習慣を変えるには以下の3つのことが必要であると言われています。
- 病気についての正しい知識を得ること。
- 習慣を変える決意をすること。
- 習慣を変えるために行動を変えること。
お酒が原因だとわかっても、節酒でなくなぜ断酒が必要なのかという正しい知識を本人が持つことが必要です。専門医療機関などのアルコール教育プログラムへの参加やアルコール症に関する本を読むことを勧めてみましょう。
病気の知識を得ても、治療を始めて間もないころは酒を止めなければいけないと思う気持ちと、ひょっとしたら自分は節酒でいけるのではないかという気持ちが混在していることもあります。自分が病気であることについて半信半疑な部分があったりすると、試し飲みで酒に手が出てしまうことも起こります。このような行きつ戻りつの心の揺れは病気を認めていく過程では、往々に生じるものです。
再飲酒は、本人を応援している周囲の人たちにとってはがっかりしてしまったり、腹が立ったりしてしまいがちですが、本人も再飲酒によって落胆しているはずです。再飲酒を責めたり「だめな人」と見てしまうのでなく、本人と一緒に断酒継続の難しさについて考え直し、同じ失敗を繰り返さないためにどのように行動したらよいかを話し合ってみてください。このとき、断酒の意思だけを確認するのでなく、断酒のための具体的な行動、例えば自助グループへの出席等を生活に取り入れていくことを勧めていくことが大切です。
再飲酒はアルコール症の回復過程においては往々にして起こるものです。むしろ回復の1プロセスと考えられています。再飲酒を失敗と捉えるよりもむしろ、その経験を今後の断酒生活にどのように生かすかが大切です。また、断酒は1度治療を受けたからといって達成できるものでもありません。治療先を安易に変えたりするのでなく、断酒生活を作り上げていくプロセスに周囲が継続して寄り添っていくことが必要でしょう。